【2025年最新】虫垂炎(盲腸)とは?症状・原因・日帰り手術を専門医が解説

虫垂炎(盲腸)とは、盲腸から突出した虫垂に炎症が起こる疾患で、適切な治療を行わないと生命に関わる可能性があります。
一生涯での罹患率は7~14%とされ、若年者に多いとされますが、近年は高齢者症例も増加しています。かつては緊急手術が標準治療でしたが、現在は抗生剤による「薬で散らす」治療も可能となりました。
しかし、薬物療法で改善しても1年以内に30%が再発するため、当院では安全確実な腹腔鏡による日帰り手術を専門的に行っています。
この記事で分かること
- 虫垂炎(盲腸)と虫垂の違い
- 虫垂炎の原因と発症メカニズム
- 典型的な症状と非典型的な症状
- カタル性から穿孔性まで4段階の進行度
- 緊急手術vs薬物療法の選択基準
- 腹腔鏡による日帰り手術の流れ
- 手術費用と保険適用
目次
虫垂炎(盲腸)とは?
基本知識と発症メカニズム
虫垂炎は「盲腸」と呼ばれることもありますが、実は「盲腸」と「虫垂」は異なる臓器です。正しい理解のため、まず基本的な解剖学的構造から解説します。
虫垂と盲腸の違い
腸管は小腸と大腸からなり、大腸はさらに盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸に分けられています。盲腸は大腸の起始部で、小腸から便が流れ込む最初の場所です。
虫垂とは、盲腸から細長く飛び出した袋状の臓器で、長さは約6-8cmです。消化吸収に直接関与しませんが、腸内細菌叢を調整している可能性が示唆されています。

名称 | 部位 | 機能 | 特徴 |
---|---|---|---|
盲腸 | 大腸の起始部 | 便の貯留・水分吸収 | 小腸からの移行部 |
虫垂 | 盲腸から突出 | 腸内細菌叢の調整(推定) | 袋状・約6-8cm |
虫垂炎の歴史と現在
19世紀初頭、虫垂炎の致死率は60%という恐ろしい疾患でした。19世紀末にCharles Heber McBurney(圧痛点で有名)らが虫垂切除術を確立し、20世紀初頭には致死率が5-12%まで低下しました。
現在では、抗生剤の進歩により「薬で散らす」選択も可能となり、腹腔鏡手術の発展により日帰り手術も実現しています。
虫垂炎の原因と疫学
誰がなりやすいのか?
発症の原因
虫垂は盲端(行き止まり)になっている管状の臓器です。虫垂と盲腸のつなぎ目が以下の要因で塞がれると、虫垂内部で異常に細菌が増殖して虫垂炎を起こします。
- 糞石:便の塊が固まったもの
- リンパ組織:感染などで腫大したリンパ組織
- 腫瘍:1~4%に悪性新生物が関与
疫学データ
項目 | データ | 備考 |
---|---|---|
生涯罹患率 | 約7% | 一生のうちに発症する確率 |
好発年齢 | 10~30歳 | 若年者に多い |
急性腹症に占める割合 | 25% | 60歳以下の場合 |
悪性腫瘍の関与 | 1~4% | 特に高齢者で注意 |
虫垂炎の症状
典型例から非典型例まで
典型的な症状の経過
虫垂炎の典型的な症状は、まず心窩部(みぞおち)や臍周囲の痛みから始まり、その後右下腹部に移動します。
典型的な症状の流れ
- 初期(内臓痛):心窩部・臍周囲の鈍い痛み、悪心・嘔吐
- 移動期:痛みが徐々に右下腹部へ移動
- 限局期(体性痛):右下腹部の鋭い痛み、体動で悪化
- McBurney圧痛点:臍と上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3に圧痛
しかし、典型的な症状が出現する方は半分もいないと言われており、特に高齢者では痛みが分かりにくい場合があります。
非典型的な症状
虫垂は腹腔内に固定されておらず可動性が高いため、位置により様々な症状を呈します。
症状 | 原因 | 特徴 |
---|---|---|
血尿 | 尿管への炎症波及 | 泌尿器疾患との鑑別必要 |
背部痛 | 腸腰筋への炎症波及 | 整形外科疾患との鑑別必要 |
頻回の便意 | 直腸周囲膿瘍形成 | しぶり腹とも呼ばれる |
下痢 | 小腸全体への炎症波及 | 感染性腸炎との鑑別必要 |
虫垂炎の進行度分類
虫垂炎は炎症の進み具合により、カタル性→蜂窩織炎性→壊疽性→穿孔性の四段階に分類されます。
進行度 | 状態 | 治療方針 | 予後 |
---|---|---|---|
カタル性 | 虫垂内に膿が溜まる | 薬物療法可能 | 良好 |
蜂窩織炎性 | 虫垂壁全層に炎症 | 薬物療法または手術 | 比較的良好 |
壊疽性 | 虫垂壁が壊死 | 緊急手術推奨 | 注意必要 |
穿孔性 | 虫垂に穴が開く | 緊急手術必須 | 重篤化リスク高 |

虫垂炎の検査・診断
確実な診断のために
身体所見や腹部症状の経過から虫垂炎を疑った場合、血液検査と画像検査を組み合わせて診断します。
血液検査
- 白血球数:炎症の程度を評価
- CRP(C-reactive protein):炎症の強さを判定
- 術前検査項目:緊急手術に備えた検査も同時実施
画像検査
検査方法 | メリット | デメリット | 診断率 |
---|---|---|---|
超音波検査 | 簡便・非侵襲的 圧痛所見も同時取得 | 再現性が低い 腸管ガスで描出困難 | 約85% |
CT検査 | 再現性が高い 他疾患も診断可能 | 被曝がある 造影剤使用の可能性 | 約95% |
当院にはCT検査機器はありませんが、近隣クリニックで同日検査が可能で、結果判明後そのまま診察できます。
虫垂炎の治療戦略
手術か薬物療法か?
虫垂炎の治療戦略は、炎症の強さ、診断時期、過去の治療経過により複数の選択が可能です。

緊急手術vs薬物療法の選択基準
虫垂炎の診断時、約80%の方は非穿孔性虫垂炎で薬物治療が可能です。
治療法 | メリット | デメリット | 適応 |
---|---|---|---|
薬物療法 | 回復が早い コスト面で有利 | 再発リスク30% 癌の見落とし可能性 | 非穿孔性 炎症限局例 |
緊急手術 | 根治的 病理診断可能 | 手術リスク 入院が必要 | 穿孔性 糞石合併例 |

患者さまが知っておくべきポイント
- 糞石を伴う虫垂炎は薬物療法が効きにくく、合併症リスクが約5倍
- 45歳以上で発症から48時間経過した場合は緊急手術を推奨
- 薬物療法を選択しても約20%は1か月以内に手術が必要
薬物療法の選択:外来か入院か
外来と入院の抗生剤治療の違いは以下の2点です。
- 絶食管理:入院では点滴で栄養管理しながら安全に絶食可能
- 抗生剤の種類:入院では選択肢が増え、より強力な治療が可能
薬物療法の成功率と再発リスク
薬物療法の奏効率は約80%ですが、一度改善しても多くの方が再発します。
期間 | 再発率 | 備考 |
---|---|---|
1年以内 | 30% | 糞石なしの場合 |
2年 | 34.0% | 累積発生率 |
3年 | 35.2% | 累積発生率 |
5年 | 39.1% | 累積発生率 |
また、穿孔例の約10%、非穿孔例の1%に悪性腫瘍が発見されるため、薬物療法で改善後も手術を推奨します。
待機的虫垂切除術のメリット
炎症がある時期の手術は、腹腔内の癒着により困難で合併症リスクも高くなります。非炎症期の手術には以下の利点があります。
- 拡大・不要手術が避けられる
- 手術合併症が減る
- 悪性腫瘍を見逃さない
虫垂炎の手術方法
腹腔鏡手術と開腹手術の比較
開腹手術
右下腹部を小切開し、虫垂を直接切除する従来の方法です。

腹腔鏡手術(当院の基本術式)
臍部一か所の創から行う単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を基本としています。
比較項目 | 開腹手術 | 腹腔鏡手術(単孔式) |
---|---|---|
創の大きさ | 右下腹部に大きな創 | 臍部のみ(目立たない) |
術後疼痛 | 強い | 軽い傾向 |
入院期間 | 通常必要 | 日帰り可能 |
術後合併症 | やや多い | 少ない |
社会復帰 | 遅い | 早い |


日帰り虫垂炎手術の流れ
初診から術後まで
予約
- 前日までの予約はWebが便利
- 当日は17時まで電話予約受付
- LINE無料相談はいつでも対応
初診(診察・検査・手術日決定)
初診では疾患の診断をし、日帰り手術を受けられるか検査を行います。CT検査が必要な場合は近隣クリニックで撮像後、当院に戻っていただきます。患者様のご都合に合わせた日程で手術を組みます。
手術当日
全身麻酔の手術なので、目が覚めたら手術が終わっている状態です。術後はご自分で帰宅できるまで休んでいただき、ご自宅到着後にお電話で安着確認をさせていただきます。
術後確認
術後1日、3日後に電話診察を行い、経過を確認します。
虫垂炎手術の合併症
知っておくべきリスクと対策
手術には一定のリスクが伴いますが、適切な管理により多くは予防・対処可能です。
合併症 | 発生時期 | 対処法 | 予後 |
---|---|---|---|
疼痛 | 術直後 | 鎮痛薬・局所麻酔薬 | 1週間程度で改善 |
出血 | 術後2日以内 | 少量なら自然止血 | 良好 |
感染 | 術後3日以降 | 抗菌薬予防投与 | 早期発見で対処可能 |
腸閉塞 | 術後数日~数週間 | 絶食・保存的治療 | 多くは改善 |
縫合不全 | 術後3-14日 | 緊急対処必要 | 稀だが重篤 |

患者さまが知っておくべきポイント
- 何もしなくても痛い状態は通常2日程度
- お腹に力を入れると痛い状態は1週間程度で改善
- 術後3日以降は創部をシャワーで洗浄し清潔保持
- 腹痛・発熱などの異常があればすぐに連絡を
虫垂炎の診療費用
保険適用と自己負担額
保険診療が適用されるため、施設間で大きな差はありません。
検査・治療内容 | 70歳以上の方 | 70歳未満の方 | |
---|---|---|---|
1割負担 | 2割負担・3割 | 3割負担 | |
診察のみ | 約1,000円 | 約1,700円 | 約2,500円 |
術前検査 | 約2,300円 | 約4,600円 | 約7,000円 |
手術費用 | 約18,000円 | 約18,000円 ※1 | 約118,000円 ※2 |
- ※1 自己負担は18,000円が上限となります
- ※2 高額療養費制度により負担が軽くなることがあります
よくあるご質問
Q. 薬で散らした虫垂炎は手術するべきか?
抗菌薬で治療した虫垂炎も25-30%程度が1年以内に再燃します。また虫垂腫瘍が原因のこともあり、虫垂の内部は内視鏡でも見ることができません。当院では摘出した虫垂を病理検査に出しています。
Q. 開腹手術と腹腔鏡手術、どちらが優れる?
腹腔鏡手術は一般的に術後早期の回復に優れています。開腹手術は癒着により傷を大きくする可能性がありますが、腹腔鏡手術では待機的な虫垂切除術で傷を延長することはまずありません。
Q. 合併症は何が考えられる?
感染、出血、他臓器損傷などがあります。感染以外の合併症は術中観察で予防でき、感染は術前後の抗菌薬投与で予防します。稀ですが重篤な合併症として縫合不全があり、術後3-14日の間に起きることがあります。必ず腹痛、発熱などの症状があるので、少しでも変わったことがあればご連絡ください。
まとめ
虫垂炎は適切な診断と治療により完治可能な疾患です。薬物療法も選択可能ですが、再発率が高く、悪性腫瘍の見逃しリスクもあるため、最終的には手術による根治が推奨されます。
当院では単孔式腹腔鏡下虫垂切除術による日帰り手術を基本とし、患者様の負担を最小限に抑えた治療を提供しています。心窩部や右下腹部の痛みでお悩みの方は、お早めにご相談ください。